お前の無欲さを、咎める気はない。だけどもっと浅ましく求めてくれたらと希う。
其ういう、複雑怪奇で浅ましく膨れあがる劣情を事細かに説明して、伊達家現当主として命じればお前は謹んで
従うんだろうけど、それじゃあ意味がないんだ。
俺のためだけに生きているのに、俺を求めないお前はいっそ絡繰り人形のようでたまに不気味に感ずるのだよ。
お前の自由意志に基づいて、俺の肉体を、精神を、限りなく求めて欲しい。
際限なく、どこまでも、六つの爪が折れるまで。
「欲しいもの…でございますか」
何気なく、今一番欲しいものを訪ねると俺の半身は本当に返答に窮した様子で、整った眉を寄せた。
目線が此方に向いていないのをいいことに、俺は小十郎の困った様相をぐるりと見回した。
昔から、俺は自らの守役を困らせることに長けていた。
突拍子のない言動と質問と問題行動で、小十郎の胃をいつもきりきり細かく痛ませていた。
いっそ、俺への忠義心を引き合いに出すのは、俺の質問の核心を体よく誤魔化しているだけなんじゃないかと思う。
少し哲学めいた話をすればいつだってそうだ。小十郎のidentityとやらは、俺という存在そのものらしい。
それはそれで、大した腹心を手に入れたと満悦の笑みを漏らすべきことなのかもしれないが、
強欲な俺はそうもいかずに不服そうな溜息を吐くだけしかできぬ。
自ら下がれと命じなければならないことが、ひどくもどかしい。
だがそう言わなければ、この忠実なる従者は一寸も体勢を変えぬまま朝を迎えることとなろう。
そしてそれが俺の命ならば、苦しいとも理不尽とも思わないのがこの男だ。
もともとは更衣を手伝わせるためだけに部屋に呼んだのだが、そんなものは口実でしかない。
俺はどうにかして、家臣としてでない片倉小十郎という男を探り当てようと日々躍起になっている。
だけど下がれと言われて、深々と垂頭して自室に戻ってしまう彼は、どうしようもないほどに俺の家臣だ。
どんな卑怯な手を使っても、いくら俺が国の王にふさわしい男でも。
お前が欲しいと言うのならば、何でもやる。それでお前が俺を求めてくれるのならば。
「Shit!……女々しいぜ」
きっと望めば何だって手に入るのに。
目の前のお前を一刻でもこの部屋に繋ぎ止めることもできない。
その想いを口にすることさえ、恐ろしくて堪らないのだ。
竜、人にあらざるものの異名をとる男が、好いた相手にこんな様とは情けない。
望めば何だって手に入る。本当に望んだもの以外は。
浅ましいほどに、お前が好き。