鴉の原始的な感情を真田は上手く汲み取ることができた。
夜明け前、薄明かり。視界には鴉が縦横無尽に飛び回り、与えられた思いがけぬ餌をどの個体より先に、
より多く喰らおうと藻掻いている様が広がる。
自分の知る鴉といえば、忍の肩で任を待つ大人しく賢い姿だけであったので、少し驚いた。
この中に、件の鴉の姿もあるのだろうか。
主の前ではけして見せぬ獰猛さを、つい半刻前まで気高き奥州の覇王であった好餌に叩きつけているのかと思うと、あな面白きこと、と真田は軽く笑った。
屍肉というのは左様に旨いのか。それともあの御方の肉だからだろうか。
ならば矢張り、鴉なぞに食わすのではなくて、己の舌で味わえばよかったかもしれぬ。
きっと如何様な団子より甘くて芳しいのだろう。
惜しいことをしたものだ、手を掛けたのはこの俺なのに。
そう、俺が「殺した」真田は一言呟いてみた。
すると木の上から「そうだね」という声が返ってきて、何だ、物の怪の類かと訝しみ天を仰いだが其処にいたのは忍だった。
「まあ、ね。いつかはこうなるかもしれないって、竜の旦那もわかっていたさ。
何せ旦那とは敵同士だ、寝首掻かれる覚悟もなしに、あんたに抱かれていたわけもない」
「佐助、喋りすぎるぞ」
「ああ、これは失礼を。湿っぽい弔いは苦手かと思ってね」
そういえば今思い出したことだが、鬱蒼とした森の中で鴉に肉を引きちぎられている
殺された男は、来世は鳥になりたいものだと似つかわしくないことを言っていた。
竜だ何だと謳われている割に存外浪漫的なことを望む。
歌を諳んじるおなごのような物言いに、その時ばかりは真田もお労らしいと感じたものだった。
「きっと、そのお望みは叶いまする。政宗殿」
鴉の腹に収まった彼は、鳥の血肉と相成って、装束と同じように蒼い大空を飛び回れることだろう。
可哀想なことをしてしまった償いになればいいが、と真田は合掌した。
その手に未だ竜の血がべったりと貼り付いているのを見て、忍は胸糞悪くなってつい嘲笑した。
遂に竜の亡骸から、残されていたたった一つの目玉が抉り取られた。
その鴉に後で、顔の左側にひとつ傷を付けてやろうと忍は思ってほくそ笑んだ。